ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE -DAY28- 

IMG_9603.JPG

朝起きると身体がガッチガチに硬い。ワイオミングの朝は氷点下まで降ろうかと言うほどの低い気温だった。そのせいで車の内側の結露がひどく、調べてみると朝の時点で2度しかなかったようだ。車内も似たような気温に違いなく、眠りに落ちるまでの間にこの寒さを感じなくて本当によかった。まだ9月だというのにこの寒さはにわかに信じがたい、秋というよりも冬のような空気の冷たさだった。

少し車を走らせると、夜のうちには見ることができなかったワイオミング州の広大な自然が見えた。どこまでも続く広い空と道路。100マイル先まで見通せるような視界。窓の外には厚いの雲が見えた。空はネブラスカのときより遥かに青い。アイオワよりも、イリノイよりも青い。言葉にするとどの州で見た光景も「果てが無い」と言えるのかもしれないけれど、「果の無さ」にも実はレベルがあって、ワイオミング州の果ての無さはこの世界の終わりのような、世界の果てのような、それが昔から何も変わっていないような、そんな光景のことを指していたように思える。視界の向こう側に見える山並みは何百マイル先にあるのかわからないけれど、すごく大きく見えて距離感がまるでわからなくなる。それがおそらくかつて行ったイエローストーンであることはわかっていたのだけれど、改めて見ると信じられない美しさだった。窓の外にちらつく白い霜らしきものが見えるが、それは実は雪だというのはサービスエリアで積もった雪に触れたときだった。その瞬間に自分の魂が震えるのを感じた。9月の雪だった。その後ララミーという街を見回り、ダイナーやモーテルの廃れ具合を写真に収めた。この街はだいぶと廃れていたが治安は良さそうで、なんとなくネブラスカに似ている気がした。違うところがあるとすればこの州にはイエローストーンもティトンもあることだろう。全米の州の中で一番人口が少ないだけ合って街に人も少ないし、道路はスカスカ。高速道路の最高速は80マイル。この州の下側のインターステイトを駆け抜けるが、間違いなくこれまでで一番の景色だろうとおもう、それくらいワイオミング州の自然は他の州とレベルが違っていた。道行くスモールタウンは完全に廃墟、所謂ゴーストタウン化していた。いい景色がありすぎてよく車を路肩に停めてぼーっとしているものだから、もう残り時間も少ないと言うのに全然先へと進めない。車を停めているのに後続車両も全然こないものだから、世界に自分一人が取り残されているかのように錯覚する。こんな場所、日本ならまず見つけることは出来ないと思う。しかしここワイオミング州ではありふれた景色のようで、通り過ぎる車のドライバーたちはこんな場所でたそがれている僕を物珍しい様子で横目に見ていた。そのあといつの間にかユタ州へと入り、ベア湖、そして山脈を抜けていく。森林の山道をグイグイと進んでいくのが久しぶりで、美しい山並みを駆け抜けるのが楽しかった。日が沈む頃にはソルトレイクシティについた。ソルトレイクは透き通った鏡のように美しく、夕焼けに染まったピンク色の太陽を湖面に反射していた。今日一日でこれまで見てきた全ての景色を圧倒的に超えるような、壮大な景色を見続けてきたような気がして、罪悪感すら感じるほど。アメリカの中西部の自然は、それほどに素晴らしいものだった。将来またアメリカに旅をする機会があるとしたら、ユタ、ワイオミングは絶対に欠かさずに行くだろう。そしてここでキャンプや釣りをしながら、ヘミングウェイのように時間を過ごしてみたいと思う。

hiroshi ujiietravel