SEE EVERYTHING ONCE -DAY16-
ハーバードのモーテルで気持ちよく目が覚める。なんとかベッドバグの被害には合わずにすんだ。喫煙可能なモーテルに初めて泊まったのだけれど、部屋には染み付いたタバコの臭いが充満している。その匂いに釣られて寝覚めに煙草とコーラ。顔を洗い歯を磨き、リンゴ、バナナ、オレンジをほおばり、出発する。今日の最初の目的地はボストン。大渋滞に巻き込まれ予定よりもだいぶ時間がかかる。駐車場をなんとか探し、ボストンの街を巡っていく。多種多様な人種が街を闊歩している。歴史的な建築と美しい公園、そして近代化されたビルが立ち並ぶ大通りは不思議な感じがした。思っていたボストンのイメージとはだいぶ異なっていた。ハーバードやMITといった有名大学のあることで知られるこの街はたくさんの学生の姿も見える。スーツを着た人の姿も多く見えるし、何よりスーツの黒人の人達は本当に格好がいい。学生が足繁く通うであろう荘厳な図書館や教会、素敵な古本屋を眺める。いい街とは良い本屋のある街だ、と長田さんは言っていたけれど、その意味から言えばこの街はいい街だと言えるだろう。人々も忙しそうではあるけれどみんな親切だった。この街の雑多さと、新旧入り混じった建築物、そして人種の多様さ、これらを一括りにするならば多様性という言葉がしっくりくる。多様性とは要するにバランスが取れた状態のことを言うのかもしれない。個性が際立っているように見えて、その逆を言えば両翼がしっかりと整い均整化された街なのかもしれない。この街を知るにはもっともっとたくさんの時間がかかるだろう。バークリー音楽大学とMITはチャールズ川という大きな川を挟んで向かい同士に建っている。川の両端をつなぐ大きな橋から川を見るとボストンのビル群や大学、さまざまな歴史的建造物をひと目に収めることができる。橋をランニングしている人達や楽器を担いで歩いて渡る人も多い。すぐに歩いて渡り終えるだろうと思ったけれど橋は予想以上に長く、汗をかき日焼けをしながらMITのほうへとたどり着いた。この街をいろいろと回ってみたけれど、やはり僕は多少廃れているような、郊外の風景が好きだ。荘厳な建物も素晴らしいが、年季の入った小さな食堂やカフェの雰囲気が好きだ。一人でいてもなんの気後れもせず、誰も自分のことなど気にしないようなゆるさが好きだと思った。なんというか、街のおしゃれなカフェはハイソサエティな人たちで占められているような気がして、旅行気分丸出しのカメラをぶら下げた髪の長いアジア人には居場所がないように感じられて仕方がなかった。
その後、ロードアイランドを目指して夕方にボストンを出る。大渋滞に巻き込まれだいぶ時間を食ってしまう。アメリカの州の中で一番小さいこと、そしてムーンライズ・キングダムの撮影地になったこと。この2つが僕がロードアイランド州について知っている全てだった。ニューポートという街の海岸線で海を眺めながらドライブした。豪華な家が並ぶこの海岸線を眺めていると、爆発したような美しい夕暮れが見えて少しだけ今日一日の疲れが取れた。