Be Patient Part6 (No Pain, No Gain)
釣った魚の写真はない。きれいなパーマークの入った小さなきれいなアマゴだった。
まだ俺の渓流シーズンは終わらせない、そう意気込んで向かった静岡は伊豆半島河津川。静岡は渓流シーズンが10月に終わる本州唯一の場所なので、少し遠くはあるが気合を入れて向かっていく。前日の仕事が多すぎてまともに寝る時間がなかったので、その日はゆっくりと出発(といっても朝の9時過ぎ)だったがこれが大変だった。静岡県につくまでに渋滞に巻き込まれること数時間、ようやく目的地の川沿いのキャンプ場ついたのは午後3時。翌日の釣りに備えて、手早く撤収できるように登山用テントだけを張った。本来これだけ良いロケーションだったらキャンプを楽しむべきだろうが、明日は誰よりも早く起きて釣り場に向かう必要があるから5時前には片付けを終えて、このキャンプ場を離れなければならない。そうなったときには掃除に手のかかる焚き火台やバーベキューコンロなどは使えないし、ゴールデンウィークのキャンプで使ったティピーテントも使えない。椅子と小さなアルミテーブル、そしてLEDのランタンと小さなテント。これが僕たちの今晩の家だった。ほぼ野宿に毛の生えたようなもんだけれど、釣りを主眼にするのであればこれくらいの我慢はどうしても必要になってしまうのが惜しいところだ。また普通にゆっくりバーベキューでもしながらワイワイキャンプがしたくなった。
お腹が減ったので近くの温泉街にあった出会茶屋というところで猪汁と名物のわさび丼を。鼻にツンと来る清涼感がたまらないし、味が濃い具沢山の猪汁は体が温まった。お店のおばちゃんがいい人で、僕たちが釣りを目的に来ているとわかると、閉めた店の駐車場に車を止めてよいから楽しんで来なさいと声をかけてくれた。静岡は県外からの観光客にわりとシビアなところがあるのでこの対応はとても嬉しい。もともと釣りをこのあたりでする予定はなかったけれど、せっかくなので釣りを1時間位楽しむことに。もうだいぶ夕方だったのでワンチャンス夕マヅメで魚が食ってくるかもと思ったが、そんなに釣りは甘くなく、数度魚がチェイスしてくるだけで僕たちのルアーにアタックしてくることはなかった。ただ、最後のポイントだった大きな滝。これを日が沈むか沈まないかのすべてが深い青に染まる時間に見れたのはよかった。僕たち以外に誰もおらず、無心になってその美しい滝にルアーを投げ込んだけれど、結局魚の一匹の影も見ることはなかった。その日は街で美味しい定食を食べてから帰り、にテントに潜り込んで早めに寝た。
翌日朝4時にアラームをかけて、全速力でテントを撤収して釣り場に向かった。渓流釣りで最も避けなければ行けないのは自分のポイントに先行者が入ることだ。マナーとして、先行者を追い抜いて上流に向かうことはタブーとされているし、何より魚がすれてしまって釣れなくなってしまう。特に僕のようなルアーの動かし方もままならない素人にとっては少しでも良い条件で釣りを始めることが一番大事だ。山奥の真っ暗な道をゆっくりと登っていくのだけれどこれがなかなかに怖い。変な宗教施設の団員に囲まれて拉致されても絶対わからんだろ、、、というか釣りをしていなかったら絶対にいかないような場所だ。なぜか木にぶら下げられているペットボトルが首吊りを連想させたり、明らかに獣の遠吠えと思しき声がそこら中から聞こえ始めると危なっかしすぎて車からはでれなかった。ようやく日が出て周りが確認できるような時間になってくると獣の声は聞こえなくなり、秋の虫が鳴き始めた。徐々に体も温まってきたのでウェーダーを着込んで入渓した。
河津川上流の萩の入川の上流を目指して上がっていくが魚影はそこまでなかった。ただ、渓流釣りの良いところは常にいい景色の中を無心で登っていけるところにある。仮に坊主だったとしても忘れがたい光景のなかを過ごすことができるというのは都会で暮らす僕らにとっては贅沢過ぎるアクティビティだ。ネットを見ながらこの日のために竿の動かし方やルアーの流し込みについてイメトレをしてきたが、それがうまく行ったのかどうかはわからない。でも、この日は何かが違ったらしい。今までは小さな魚が追ってくることはあっても食わなかったが、今回はどういうわけか3匹も釣れた。10数センチ程度の本当に小さなアマゴの稚魚だった。これが僕の渓流釣りの最初の一匹だった。そして揃えたタックルの入魂が完了した(これで入魂と言えるのか、、、)。あれほど一匹釣ることにこだわっていたのに、最初の一匹を釣ったときには全く実感がなかった。これは魚とのやり取りをするというようなレベルでなかったからだとおもう。岩陰から出てきたアマゴが僕のルアーにアタックしたはいいものの、圧倒的なパワーの差によって何の抵抗もなく僕のネットに収まってしまった。憧れきた魚とのファイト、そして川沿いで焚き火をしながらその魚を食すというのはまた次の機会にお預けとなってしまった。
そのまま更に上流まで上がっていくと、どんどん魚影はなくなっていった。その代わりにエメラルドブルーに染まった深い淵や、清流のちょっとしたゴルジェ帯が僕たちを待ち受けていた。傾斜もきつくなり、これ以上先に進むと退渓できるのかどうかもわからなかったので切りの良いところで昼食をとったあとの来た道を戻ることにした。※実は入渓をかなり無理して危ないところから入ったので、具体的にどの地点から退渓するのかの計画がないまま登ってきてしまったので帰り道を探す時間も必要だと思っていた。
悲劇は帰り道に起こった。竿を折りたたんでバックパックの脇に差していたのだけれど、いつの間にか釣り糸が木に引っかかっていたようで、そのまま気づかずに歩いたことでテンションがかかり竿先が折れていた。リールから糸はすべて出きっており、糸も竿もすべて失ってしまった。いつもだったらかなりげんなりしているはずだけれど、小さいとはいえ魚を釣ったことで微妙に心は持ち直していた。今シーズンは稚魚3匹。折れた竿2本。ボウズ5-6回と散々なできだったが、なぜか楽しくここまでやってこれた。めちゃくちゃに勉強代がかかったけれど、この反省を活かしながら次の釣りにつなげていきたいと思った。
—余談—
帰りに伊豆のスカイラインというちょっと眺めのいいハイウェイを通って帰ったけれど、そのときに見た玄海ドライブイン?のような施設はやばかった。昔アメリカでルート66を走りながら廃墟に侵入していたけれど、そのとき感じた高揚感に似たものを感じた。中にはなぜか作業をしている一般人が一人、その人が作ったのかしらないが4Fの部屋には野良の現代アートのようなバキバキにキマってる作品めいたものがあった。ボムられまくったこれだけ大規模な廃墟がこんなところにあるなんて、、、とちょっと感動してしまった。